認知症,知的障害,精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は,不動産や預貯金などの財産を管理したり,身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり,遺産分割の協議をしたりする必要があっても,自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。また,自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい,悪徳商法の被害にあうおそれもあります。このような判断能力の不十分な方々を保護し,支援するのが成年後見制度です。
後見人をつけることが妥当であるかどうかは、申し立ての際に添付する医師の診断書に基づいて家庭裁判所が判断します。
この診断書を書く医師は、精神科の医師である必要はなく、かかりつけの耳鼻科や内科の医師でもよいことになっています。
申し立ての際に、ほんとうに認知症を発症しているのかどうかが疑わしい場合には、あらためて精神科の医師による鑑定を要求されることもあります。
成年後見制度にはどのようなものがあるのか?
成年後見制度は,大きく分けると,法定後見制度と任意後見制度どの2つがあります。
さらに,法定後見制度は,「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており,判断能力の程度など本人の事情に応じて制度を選べるようになっています。
法定後見制度においては,家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が,本人の利益を考えながら,本人を代理して契約などの法律行為をしたり,本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり,本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって,本人を保護・支援します。
法定後見制度の比較
後見 | 保佐 | 補助 | |
---|---|---|---|
対象となる方 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 | 判断能力が著しく不十分な方 | 判断能力が不十分な方 |
申立てすることができる人 | 本人,配偶者,四親等内の親族など | 本人,配偶者,四親等内の親族など | 本人,配偶者,四親等内の親族など |
後見人等の同意が必要な行為 | 民法13条1項所定の行為 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為の一部) | |
後見人等が後で取消可能な行為 | 日常生活に関する行為以外の行為 | 同上 | 同上 |
後見人等に与えられる代理権の範囲 | 財産に関するすべての法律行為 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」 |
当事務所で法定後見制度を申立てをした事例
ご本人は5年程前から物忘れがひどくなり,勤務先の直属の部下を見ても誰かわからなくなるなど,社会生活を送ることができなくなっていました。日常生活においても,家族の判別がつかなくなり,その症状は重くなる一方で回復の見込みはなく,2年前から入院していました。
ある日,ご本人の弟さんが突然事故死し,ご本人が弟さんの財産を一人で全て相続することになりました。しかし弟さんには負債しか残されておらず,困ったご本人の奥さんが当事務所に来所され、当職と相談した結果、ご本人の相続放棄の手続きを進めるために,申立人兼後見人候補者を奥さんとして、後見開始の審判を申し立てました。
家庭裁判所の審理を経て,1か月後には本人について後見が開始され,ご本人の財産管理や身上監護をこれまで事実上担になってきた奥さんが無事に成年後見人に選任され,奥さんは、ご本人の成年後見人という資格で、当職が用意した相続放棄手続申立書を家庭裁判所に提出することにより、翌月には相続放棄の審判が確定しました。
成年後見人等には,どのような人が選ばれるのでしょうか?
成年後見人等には,本人のためにどのような保護・支援が必要かなどの事情に応じて,家庭裁判所が選任することになります。本人の親族以外にも,法律・福祉の専門家その他の第三者や,福祉関係の公益法人その他の法人が選ばれる場合があります。成年後見人等を複数選ぶことも可能です。また,成年後見人等を監督する成年後見監督人などが選ばれることもあります。
公益社団法人成年後見センターリーガルサポートは、平成11年12月に司法書士が成年後見業務に取り組むために設立した団体で、平成23年4月に公益社団法人へ移行しました。全国に50の支部があり、約7000人以上の司法書士が参加しています。司法書士は、成年後見業務について専門職としてはいち早く取り組みを開始し、その実績は、高く評価されています。
当事務所の司法書士は全員公益社団法人成年後見センターリーガルサポートに所属しております。
成年後見人等(成年後見人,保佐人及び補助人)と本人の関係をみると,配偶者,親,子,兄弟姉妹及びその他親族が成年後見人等に選任されたものが全体の約42.2%となっています。
親族以外の第三者が成年後見人等に選任されたものは,全体の約57.8%であり,親族が成年後見人等に選任されたものを上回っています。その内訳は,1位が司法書士の7,295件,2位が弁護士の5,870件,3位が社会福祉士の3,332件です。
烏丸仏光寺司法書士事務所所属の司法書士が成年後見人に選任された事例
①本人は20年前に統合失調症を発症し,15年前から入院していますが,徐々に知的能力が低下しています。また,障害認定1級を受け障害年金から医療費が支出されています。本人は母一人子一人でしたが,母が半年前に死亡したため,親族は母方叔母がいるのみです。亡母が残した自宅やアパートを相続し,その管理を行う必要があるため,母方叔母は後見開始の審判の申立てを行いました。
家庭裁判所の審理を経て,本人について後見が開始されました。そして,母方叔母は,遠方に居住していることから成年後見人になることは困難であり,主たる後見事務は,不動産の登記手続とその管理であることから,烏丸仏光寺司法書士事務所所属の司法書士が成年後見人に選任されました。
②本人は,一人っ子で生来の重度の知的障害があり,長年母と暮らしており,母は本人の障害年金を事実上受領し,本人の世話をしていました。ところが,母が脳卒中で倒れて半身不随となり回復する見込みがなくなったことから,本人を施設に入所させる必要が生じました。
そこで,本人の財産管理と身上監護に関する事務を第三者に委ねるために後見開始の審判を申し立てました。
家庭裁判所の審理を経て,本人について後見が開始されました。そして,本人の財産と将来相続すべき財産と身上監護のことを考慮して,烏丸仏光寺司法書士事務所所属の司法書士が成年後見人に選任されました。
成年後見人等の役割
成年後見人等は,本人の生活・医療・介護・福祉など,本人の身のまわりの事柄ことがらにも目を配りながら本人を保護・支援します。しかし,成年後見人等の職務は本人の財産管理や契約などの法律行為に関するものに限られており,食事の世話や実際の介護などは,一般に成年後見人等の職務ではありません。
また,成年後見人等はその事務について家庭裁判所に報告するなどして,家庭裁判所の監督を受けることになります。